太陽に抱かれて

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第二章 雨に燃ゆる 5

2-5 アトリエに着くころには、髪や肩がしっとりと濡れていた。シモンはコットンの肌触りのよいタオルを貸してくれた。 先ほどよりも大きくなった雨粒が、窓や屋根を打ちつけている。 多くの画材で埋もれた小屋...
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第二章 雨に燃ゆる 4

4 昨夜から降り出した雨は、朝になっても止むことはなかった。 しとしと、灰色の空からいくつもの雫が降りてくる。石畳を、あるいはブティックのガラス窓やカフェの庇を、容赦なく打ち付けては小さな飛沫が立つ。...
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第二章 雨に燃ゆる 3

3 ヴーヴー、鳴り止まない携帯のバイブレーションに、ももは眉を顰めながら布団からら手を伸ばした。「ボンジュール」 画面をタッチして、そこに映し出された名前すら確認せずに耳に当てる。 聞こえてきたのは、...
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第二章 雨に燃ゆる 2

2 不思議なことに、その次の日から、彼女は朝ヴェルノンのブーランジェリーで二人分のクロワッサンを調達するようになっていた。また、あるいはカカオの香ばしいパン・オ・ショコラを。できるだけ焼き上がる時間を...
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第二章 雨に燃ゆる 1

1 ももは、船に乗っていた。 行き先は決まっている。きっと鉄鋼でできていて、それなりに頑丈で、多少の波にはものともしない。その大きな船は、ゆっくりと目的地に向けて海原を進んでいくはずだった。 ――もも...
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第一章 ジヴェルニーの丘 3

3 さて、画家が描いていたのは、いずれもセーヌ川畔の美しい風景だ。光に揺れる水面、艶やかにしだれる柳——連日、カンヴァスに姿を現わすのはどれも似かよった景色だというのに、色使いや筆使いはまったく違う。...
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第一章 ジヴェルニーの丘 2

2 その日、ヴェルノンの街並みに太陽がどんどん近づいて、やがてその光が弱まっても、ももは男の戸外制作をただ見つめていた。会話など一切なく、目の前の大男がその逞しい腕で絵筆を握るのを一心不乱にその目に刻...
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第一章 ジヴェルニーの丘 1

1 天から|燦々《さんさん》と注ぐ光が、アスファルトを照りつけている。 パリからおよそ七十キロ、列車で揺られること四十五分。国鉄のヴェルノン駅を降りた一人の日本人が、六つ折りの地図片手に、ゆっくりと東...
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プロローグ

もしもあのときあのまま立ち止まっていたのならば、幸せになっていたのだろうか。 この身を引き裂くような|惨《みじ》めさも、|憤《いきどお》りも。 胸の内を暗く空っぽにさせるものなど――なにも、知らずにい...
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恋愛 R18 全29話 完結済みこの心の揺さぶりを、なんと喩(たと)えたらいいのだろう。心に深い傷を負った女性がかつての夢の象徴であるフランスの田舎町で、一人の画家と出会う。 荒々しくも繊細にカンヴァ...
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