太陽に抱かれて

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第三章 光と影 9

9 午後、二人は各々の生活に戻った。シモンはアトリエで制作を、ももは雨上がりのジヴェルニーを眺めるために丘を降りた。 雨上がりのパリは格別だと昔スクリーンの中である俳優が言っていたが、この田舎町もなか...
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第三章 光と影 8

8 二人の生活は続いていた。ただ、寝食をともにするからといって、そこに情事も含まれているかというと、それはまた別の話だった。 しとしとと雨の降る朝、シモンが目の前の壁を飛び越えてももの領域に現れた日以...
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第三章 光と影 7

7 ジヴェルニーで暮らすようになったとはいえ、ももの生活は基本的に変わることはない。 朝起きてコーヒーを飲み、室内を軽く掃除してからブーランジェリーにパンを買いに出る。丘に戻ったころにはシモンも起きて...
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第三章 光と影 6

6 その日、ももはシモンのアトリエに泊まることになった。 自らの傷を打ち明けたことで、ももはその場から逃げ出したい気持ちでいっぱいになったが、変わらずシモンはなにも彼女に問うことをせず、静閑とした湖畔...
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第三章 光と影 5

5 言葉にした途端、どっと空気の塊が口から入り込んでくるのを感じた。喉をつかえ、うまく呼吸ができなくなる。どうにか酸素を得ようと喘ぐが、ひゅう、ひゅう、と不格好な音が続くばかりだ。 過呼吸を起こしたも...
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第三章 光と影 4

4 しばらく空想と現実の狭間を満喫して、散らかったシモン・ロンベールの城を出ると、どこからか、にゃあ、という鳴き声が聞こえてきた。「あら」 イーゼルに向かって仁王立ちをするシモンの足元に、ブラウンタビ...
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第三章 光と影 3

3 目がさめると真っ白な世界が広がっていた。太陽にさらされた新しいカンヴァスのように、なににも染められていない、唯一の色。「伊賀利さん、終わりましたよ」 それは絶望の色であった。 もはやパリの朝は凍て...
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第三章 光と影 2

2 夏の香りもすっかり空の向こうへと攫われ、小麦色の海がそよぐ真昼のこと。ももがアトリエの床から画家の落とした絵の具のチューブを拾い集めて丘へ戻ると、一人の男の姿があった。「相変わらずだ」 長い体躯を...
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第三章 光と影 1 

1 埃っぽいような、湿っぽいような、ふと懐かしくなるような匂いがする。ああ、これはあの渡り廊下だ、ももは思った。 がやがやと騒めく緑色の廊下をゆっくりと進んでいく。胸には大きなスケッチブックと、教科書...
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第二章 雨に燃ゆる 6

6 リネンのカーテンから光が差し込んでいる。窓際の白いシーツの皺を映し出すほどのあえかな光だ。 静閑とした森に踏み込んだかのような空気だった。ひんやりとした温度が肌を包んでいる。ただ、腕に伝わる生々し...
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